今回はサッカー好きなら誰もが知っているUEFAチャンピオンズリーグが近年ルール改定した「アウェイゴール」方式の撤廃によって、大会全体の傾向にどんな変化があったかをまとめます。これによって現代のサッカーの傾向が見えてくる点や、自身の勝敗予想の考え方に変化が起きるかもしれません。試合観戦をする上での楽しみ方の1つの材料として紹介しておきます。
UEFAチャンピオンズリーグとは
UEFAチャンピオンズリーグは、欧州サッカー連盟(UEFA)が主催する、欧州最高のクラブチームが競い合う年間王者決定戦です。1955年にヨーロピアン・チャンピオン・クラブズ・カップとして始まり、2005年に現在の名称に変更されました。
そもそも近年では特にヨーロッパのサッカーリーグに世界中の優秀な選手が集っていますので、言わばこのUEFAチャンピオンズリーグを制することは、ほぼ世界王者と認定されるような大会であると位置づけられています。
世界中のサッカーファンを熱狂させるチャンピオンズリーグは、単なるサッカー大会ではなく、エンターテイメントショーとしての側面も持ち合わせています。スタジアムは常に満員となり、選手たちは熱狂的なサポーターの応援を受けながら最高のプレーを披露します。また、巨額の賞金も魅力の一つであり、優勝チームには数億円規模の賞金が与えられます。
近年では、日本代表選手もチャンピオンズリーグの舞台で活躍を見せています。
2023-24シーズンでは現日本代表の冨安健洋選手(アーセナル所属/イングランド)や、久保建英選手(レアル・ソシエダ所属/スペイン)など複数名の選手がこの舞台に出場していたりします。
チャンピオンズリーグにおけるアウェイゴール方式のルール改定について
UEFAチャンピオンズリーグの近年の大きなルール改定としては、「アウェイゴール方式」の撤廃が話題になりました。
アウェイゴール方式とは、グループリーグを突破したチームで構成されるノックアウトステージと呼ばれる決勝トーナメントを実施する上でのゴールの価値について定められたルール。
決勝トーナメントでは自チームのスタジアムでの開催となる”ホーム戦”と、対戦チームのスタジアムで開催される”アウェイ戦”の2試合の合計得点が高かったチームが勝ちあがる方式が取られています
補足として主に決勝戦だけは予め定められた決勝戦の開催場所で1試合のみ行う形式になっているので、準決勝までの試合がこのホーム&アウェイの2試合形式で開催されます。
そして、このチャンピオンズリーグにおける「アウェイゴール方式」とは、この2試合の合計得点が仮に同点だった場合、アウェイでより多くのゴールを挙げたチームが勝利とするというルールでした。
例えば、AチームとBチームの場合
第1試合:Aチーム(ホーム ) 2対2 Bチーム(アウェイ)
第2試合:Aチーム(アウェイ ) 1対1 Bチーム(ホーム)
となったときに、2試合合計のTotalスコアが3対3という結果になります。
本来であれば同点なので、さらに決着をつけるべく延長戦やPK戦を行うという形になるのですが、「アウェイゴール方式」をこの結果に当てはめると、アウェイで2得点を奪っているBチームの勝利が確定するということになります。
前述のとおり、ヨーロッパ各国のリーグを代表するチーム同士で戦う訳なので、試合会場のサポーターの熱量は非常に高いものとなるのがチャンピオンズリーグ。
そんな中で、同点の場合、敵地(アウェイ)で得点を多くとったチームが勝ちあがる価値があるよね、と定めたのがこの「アウェイゴール方式」と言えます。
この「アウェイゴール方式」は、2004-05シーズンからUEFAチャンピオンズリーグの決勝トーナメントにおいて採用されました。約20年程度この方式で大会の決勝トーナメントが開催されていたこともあり、ある意味チャンピオンズリーグを観戦する上での醍醐味の1つとなっていましたが、2021-22シーズンにルール改定が行われ、「アウェイゴール方式」が撤廃する流れとなっています。
ルール改定のメリット/デメリット、選手やサポーターの反応
そもそもアウェイゴール方式には、以下のようなメリットとデメリットがあったと言われています。
■メリット
- アウェイチームが攻撃的な戦術を選択しやすくなる
- 試合がよりエキサイティングになる
- アウェイゴールによるドラマチックな展開が見られる
■デメリット
- アウェイチームの得点が多い場合、一気に試合が決まってしまうケースがある
- アウェイチームがカウンター狙いの非消極的な戦術を取りやすくなる
- ルールを理解していない人にとっては状況が理解しずらい
といった感じです。
「アウェイゴールによるドラマチックな展開が見られる」という点は特に印象的で、終盤の1つのアウェイチームの得点によって、Totalスコアの扱いが一気にひっくり返る瞬間は毎年何試合か発生していたこともあり、まさに歴史に残るドラマチックなシーンが生み出されたのも事実と言えます。
そんなわけで、チャンピオンズリーグの目玉と言えたルールの1つである「アウェイゴール方式」の撤廃は、選手やサポーターの間で様々な反応を生み出しました。
選手の中には、アウェイでゴールを奪う必要性がなくなるため、敵地では攻撃的な戦術が取りづらくなるという懸念を示す選手もいました。一方、アウェイゴール方式がなくなったことで、より攻めの姿勢で試合に臨めるようになったと歓迎する選手もいました。
サポーターの間でも、賛否両論がありました。アウェイゴール方式がなくなったことで、試合が面白くなくなるという声がある一方で、よりフェアな試合になるという声もありました。
なぜアウェイゴール方式を撤廃したのか
UEFAは、アウェイゴール方式を撤廃した理由を以下のように説明しています。
- アウェイチームがホームチームよりも不利な状況に置かれるという問題を解決するため
- 試合の公平性を高めるため
- より多くのゴールが生まれ、よりエキサイティングな試合になることを期待するため
上記の目的で2021-22シーズンからルール改定が行われ、新しい大会方式の価値の審議が問われているのがここ最近のシーズンと言えるでしょう。
では、実際にこの大きなルール改定によってどんな変化が起きているか。
実際にデータを基に検証してみようと思います。
データで見るアウェイゴール方式撤廃の影響
実際にアウェイゴール方式撤廃は試合にどのような影響を与えたのでしょうか?
以下では、データ分析に基づいて、アウェイゴール方式撤廃前後におけるUEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメントの以下の実績を追ってみようと思います。
❶勝率
❷延長戦の頻度
❸ゴール数
今回はわかりやすい指標として、この3つの要素におけるルール改定前、改定後の実数を比較していきます。
❶勝率の変化
シーズン | ホームチーム勝率 | アウェイチーム勝率 |
---|---|---|
アウェイゴール方式あり (2010-2021シーズン合計) | 61.7% | 38.3% |
アウェイゴール方式なし (2021-2023シーズン合計) | 58.3% | 41.7% |
このデータを見ると、アウェイゴール方式撤廃後であっても、ホームチームがアウェイチームよりも勝利しやすい傾向は変わりませんが、アウェイチームの勝率がわずかに上昇していることがわかります。
ホームチームの勝率が高ければ高いほど、アウェイチームの取りうる戦術が守備的になり、結果として試合内容が読みやすくなる懸念点を解消したいという目的でのルール改定だと捉えると、わずかにですが良い傾向が出ているとも言えます。
一方で、見方を変えれば…そんなに変わらないような気がします。
❷延長戦の頻度
シーズン | 延長戦頻度 |
---|---|
アウェイゴール方式あり (2010-2021シーズン合計) | 21.3% |
アウェイゴール方式なし (2021-2023シーズン合計) | 23.5% |
延長戦の突入率も数字を見てみました。
データを見ると、アウェイゴール方式撤廃後、延長戦の頻度がわずかに上昇していることがわかります。これは、アウェイゴール方式がなくなったことで、Totalスコアの判定がアウェイチームの得点によって判断されることもなくなったことがあり、延長戦突入率を高める可能性を見ていく上で抽出してみています。また、試合がより接戦になるようになったことの一つの指針としても観測できるのではないかと思います。
こちらもわずかな変化ではありますが、2ポイント程度延長戦の頻度が上昇しているので、ルール改定の影響もある気がしますが、大会運営方式的には延長戦が増加することを望んでいるかどうかも少し不明瞭な点があるので、一概に〇✕の判断は難しそうな状況です。
❸ゴール数
シーズン | 1試合あたりの平均得点 |
---|---|
アウェイゴール方式あり (2010-2021シーズン合計) | 2.88点 |
アウェイゴール方式なし (2021-2023シーズン合計) | 2.95点 |
では、試合内容を濃厚にする1つのポイントであるゴール数に与えた影響はどうかを見ていきます。
こちらについても、「アウェイゴール方式」を撤廃した後の方が1試合あたりの平均得点数は上がっているので、より1試合におけるハイライトシーンが増加していると捉えることができます。
また、アウェイチームが公平に戦えているかどうかを意味する上で、アウェイチームの得点率についても以下のようなデータが出ています。
シーズン | アウェイチームの平均得点 |
---|---|
アウェイゴール方式あり (2010-2021シーズン合計) | 1.44点 |
アウェイゴール方式なし (2021-2023シーズン合計) | 1.53点 |
アウェイチームがより攻撃的に得点を奪いに行こうという姿勢が数字上はわずかに上がっていることもあり、ルール改定の変化が一部出ていると言えます。極端に上がったと言える結果ではないので、引き続き観測が必要そうな感触ではあります。
❹シーズン単位の傾向とその他の注目指標
参考までに、上記❶~❸の傾向をシーズン単位で整理すると以下のような結果となっています。
2010-11 (アウェイゴール方式あり) | 10 | 2 | 2.43 |
2011-12 (アウェイゴール方式あり) | 12 | 1 | 2.63 |
2012-13 (アウェイゴール方式あり) | 13 | 2 | 2.76 |
2013-14 (アウェイゴール方式あり) | 14 | 3 | 2.68 |
2014-15 (アウェイゴール方式あり) | 13 | 2 | 2.82 |
2015-16 (アウェイゴール方式あり) | 17 | 3 | 2.83 |
2016-17 (アウェイゴール方式あり) | 13 | 4 | 2.66 |
2017-18 (アウェイゴール方式あり) | 14 | 4 | 2.87 |
2018-19 (アウェイゴール方式あり) | 17 | 4 | 2.98 |
2019-20 (アウェイゴール方式あり) | 14 | 3 | 2.84 |
2020-21 (アウェイゴール方式なし) | 18 | 5 | 2.93 |
2021-22 (アウェイゴール方式なし) | 18 | 6 | 3.00 |
2022-23 (アウェイゴール方式なし) | 17 | 4 | 3.21 |
また、上記以外にもデータを見ていくとアウェイゴール方式撤廃後、アウェイチームのゴール数に以下の変化が見られました。
- 0得点の割合が減少: アウェイゴール方式があった際はアウェイチームが得点を奪えない試合、つまり0得点割合が【24.6%】であったのに対し、方式撤廃後の0得点割合は【17.9%】と減少傾向にある。
- 2得点の割合が上昇: アウェイゴール方式があった際はアウェイチームが2得点奪う割合は【27.5%】であったのに対し、方式撤廃後の2得点割合が【30.8%】となっている。
これらの変化は、アウェイゴール方式撤廃により、アウェイチームがより攻撃的な戦術を選択するようになったことが原因と考えられます。
※補足※
- 各シーズンの決勝トーナメントにおけるすべての試合を対象に、アウェイチームの勝利数と延長戦の頻度・ゴール数を集計しています。
- この分析は、アウェイゴール方式撤廃がアウェイチームのゴール数に与えた影響のみを分析したものであり、当然ですがサッカーの戦術におけるトレンドの変化や得点率の高いプレイヤーの割合等でもバランスが変わってきますので、その他の要因が影響を与えている可能性も考慮する必要があります。
- あくまで、全体的な実績の変化を追ってみていることやあくまで平均値としての傾向補足に留めています。外れ値の除外等のより詳細な分析を行うためには、個々の試合の状況やチームの戦術などを考慮する必要がありますのでご理解ください。
まとめ
今回は、サッカーファンなら誰もが注目するUEFAチャンピオンズリーグにおける大きなルール改定である「アウェイゴール方式」の撤廃がどのように試合内容を変化させているかを見てみました。
結果として、わずかではありますがアウェイチームが最初から試合を捨てることなく、よりスリリングな試合経過を生み出してくれるような数字的変化が起きているとも言えるかもしれません。
ただ、前述のとおり大幅な変化には至っていないことも事実であり、近年の大型補強が可能なビッグクラブとその他のチームの総力の差などはこのルール改定だけでは変化を生み出せないものと捉えることができるかもしれません。
この記事を書いている時点で、現在行われている2023-24シーズンも準決勝のチームが出そろいました。このシーズンの着地も含めると傾向がどう変化するかも引き続き見ていければと思っています。(現時点で数字を見る限り、そんなにルール改定がポジティブな傾向に出ていないような気もします…)
とはいえ、新しい環境やルールに適応して、選手たちがより白熱した試合を展開してくれることをファンは望んでいますし、”お金”で結果が出てしまうようなシーンはあまり見たくないのも事実です。
より、スリリングでエキサイティングな試合内容が多くの試合で垣間見れるように、より良いルールの設定は求めていきたいものですよね。
競技の質や、観客への不満解消や楽しみを与える意味でもVARや判定材料としてテクノロジーの導入など、近年では様々なルールや方式の改定がサッカー界でも行われています。
試験的導入も含めて、どういった効力や変化が起きているのかを実績で追っていったりすることも、一つの楽しみかもしれません。
エンターテイメントで日々の生活を潤していく視聴者やサポーター目線でも、引き続き”気になる!”変化をデータ等でのぞいていくような記事を継続出来たらと思っています。
※最後にBunBunBunでは以下のようなサッカーやスポーツに関連するお薦め記事を別途展開しています。海外へ旅に出なくても別の楽しみ方を模索したい方、ぜひ参考にしていただけると幸いです。
了